要旨集

遠藤彰彦 「葛巻町の風力発電が与えたもの 〜経済効果と環境効果の視点から〜」
世界規模で地球温暖化問題や石油、石炭などといった資源枯渇問題が叫ばれている。その為、先進国を中心として二酸化炭素の削減活動や植林活動、再生可能エネルギーへの転換などの環境活動が行われている。日本も例外ではなく、各地で様々な環境活動が行われている。日本では、資源枯渇による火力発電からの脱却と東日本大震災による原子力発電事故による脱原発が叫ばれている。NHK(2013)によると、新しいエネルギーとして1番求められているのは再生可能エネルギーであることがわかった。しかし、千葉県自然保護連合事務局(2010)によると、風力発電には低周波問題やバードストライクといった様々な問題があり、千葉県習志野市等は風力発電事業をうまくすすめられていないと述べられている。そのような状況の中で、私の出身地である岩手県葛巻町は風力発電事業を現時点で成功させているのか、失敗と言わざるを得ない状況なのかを考えていくことにした。
葛巻町役場HPによると、葛巻町には、袖山と上外川に合計15基の風力発電が設置されている。年間予想発電量は5600万kWで、葛巻町が必要とする電力の約2倍に相当するという。
風力発電の主な問題点として、建設費用および維持費のコストが高い、低周波問題、バードストライク、景観を阻害する等があげられる。葛巻町役場への聞き込み調査及び文献での調査により、葛巻町はそれらの問題に柔軟に対応し、町民からの苦情や地域産業への影響は一切ないことが分かった。さらに、経済面や環境面で葛巻町はうまくいっているのかを葛巻町と類似している他地域との比較で調査した。
比較に当たっては2つの方法を使用した。まず、発電量は一定の成果を出すことが出来ているのかを調査するため全国を比較対象とした。調査の結果、葛巻町は上外川の風力発電だけでも全国で384ヶ所中34位を記録していることが分かった。次に風力発電の利用率、環境効果、経済効果、観光資源としての利用、住民からの反応については地理的状況が類似している秋田県鹿角市と福島県郡山市を比較対象とした。比較の結果、他地域に劣っておらず葛巻町は地元住民や野生生物に優しい風力発電を行っていることが分かった。この結果、葛巻町は財政面でも環境面でも一定の成果を出すことが出来ていた。
葛巻町役場への聞き込み調査や文献での調査によって分かった葛巻町の風力発電の問題点への取り組み、風力発電の財政効果と環境効果を総括して考えた結果、葛巻町の風力発電は成功している状態であると私は考える。また、これからは全国的に風力発電の建設地が山間部に偏るという問題が発生する事が考えられる。対策としては山間部の自治体には補助金を交付すべきと私は考える。都会では産業や経済が潤い、発電を担当する山間部と関わっていく中で山間部の産業も発信することで、よりよい経済の発展が望めるだろうと私は思う。
 
松浦真悟 「滝川市がバイオディーゼル燃料政策を続けていくには  〜帯広市・東近江市を例にして〜」
 本論文は私の地元である北海道滝川市が行っている環境政策は何かという疑問から始まった。滝川市は全国でも有数の菜の花の作付面積であることから、それを有効活用することができるバイオディーゼル燃料政策について興味を持ち調べた。すると滝川市は国からの補助金が打ち切られたことが主な原因でバイオディーゼル燃料政策が滞っている状態であるということがわかった。
 しかし私は菜の花を利用することができるバイオディーゼル燃料政策は、菜の花を市の売りにする滝川市にとって必要な政策であると考えた。そこで滝川市がバイオディーゼル燃料政策を継続していくにはどのような政策を行っていくことが望ましいのかを他の市町村でバイオディーゼル燃料政策に取り組んでいる北海道帯広市と滋賀県東近江市を例にとり比較していくことで考察していく。
滝川市のバイオディーゼル燃料政策を帯広市、東近江市と比較すると、政策での決定的な違いはその地域内の民間企業がバイオディーゼル燃料政策に参入し、市と連携しながらバイオディーゼル燃料政策を行っているかいないかであると考えた。ここから滝川市は予算の問題だけでなく、民間の参入がないために燃料の回収の仕方や市の規模から回収量にも問題点があることがわかった。しかし私は滝川市を代表する菜の花を利用したバイオディーゼル燃料政策は市をPRすることができるというメリットを含む政策であることから今後も継続していくべきだと考える。比較対象とした東近江市はバイオディーゼル燃料政策によって市をPRすることができた成功例であり、このことからもバイオディーゼル燃料政策により滝川市も市をPRすることができるのではないかと考える。滝川市が今後バイオディーゼル燃料政策を継続していくためには問題点の改善が必要である。この改善策として私は「回収拠点の数を少なくすること」が必要なのではないかと考える。それを実現するためにも市民への政策の理解を第一として今後も徹底した周知が滝川市のバイオディーゼル政策を続けていくうえで大切になってくると考える。
 
砂渡美佳 「釧路市におけるごみ処理広域化およびリサイクルの現状と課題  〜国の政策を地方から見る〜」
 釧路市では、2006(平成18)年4月から釧路広域連合清掃工場が稼働し、それまでの直接埋立てから焼却処理へとごみ処理体制の転換を行った。その前年にはごみ処理手数料の有料化が開始され、プラスチック製容器包装の資源物回収が行われている。
 2008(平成20)年度からは廃プラスチックの資源化が開始され、ペットボトル・白色トレイの収集委託を開始している(平成25年度釧路市清掃事業資料集を参照)。
 このように釧路市では、国の方針に従いごみ処理広域化、有料化、資源化とさまざまな政策が行われている。また、最終処分場の使用期間が当初予定していた平成28年度から32年度まで延びたことから、同市の政策により一定の効果はあったと言える。
 しかし、広域処理や有料化、資源化は「排出されたごみをどのように適正に処理するか」という考えのもとに進められた対策であり、根本的なごみ問題の解決にはつながっていない。市町村での対応は、適正処理の範囲内に限られており、根本的なごみ問題への対応は国の政策だけではなく、自治体独自の政策も必要である。
本論文では、釧路市のごみ処理体制が転換するきっかけとなったごみ処理広域化およびリサイクルの現状から、その背景にある国の政策と比較することで見えてきた釧路市の課題を明らかにすること、そしてその課題を解決するための対策を考察することを目的としている。
 結論として、課題としては国と地方との政策の考え方に違いが生じていること、そして国の政策をそのまま地方に適用しても、政策と地方の実情が合っていないことから生じる問題もあることが挙げられる。
 そして、その問題を解決するためには、国の政策に頼るのではなく、釧路市独自の取組も必要であり、今後考えていかなければならない課題であるとして結論付けている。
 
吉田篤史 「環境面に関する衣料品メーカーの方向性と課題  ~ファストファッションとスローファッションの比較~」
 世界中には数えきれないほどの動物が存在している。しかし、その中の人間だけが「衣服」を身に着け、自分を好きなように着飾ることが可能である。またその「衣服」の中には高価なもの、安価なもの、仕事などで作業するためのもの、スポーツなどのための機能性を重視したもの、見た目のためのものなどといったように、多種多様なものがある。
さらに、いま人口増加傾向と不況という局面にあり、それに応じてファストファッション化し「大量生産・大量消費・大量廃棄」という言葉をよく耳にするようになった。日本では年間約250 万トンの繊維製品が消費され、200万トン近くがリサイクル・リユースされるかゴミとして捨てられている現状がある。本論文では、衣料品の廃棄量問題にスポットをあて、環境に配慮している衣料品メーカーはどういったものなのかを考察していく。
数多くある衣料品メーカーは、どのような環境配慮策を実施しているのだろうか。現在、若者を中心に流行しているファストファッションの中から選抜したユニクロとH&Mはいくつかの環境配慮策を実施しているが、主にリサイクル・リユースを中心に環境配慮を行っている。対するスローファッションは、大量生産せず衣料品の素材や社会貢献に力を入れている。また、海外と国内の衣料品メーカーでは、環境に対する考えや規模も異なっている。
スローファッションの衣料品メーカーの中で代表格ともいえるピープルツリーは、フェアトレードにも力を入れており、衣服のフェアトレード商品を販売した先駆者として途上国の発展と環境配慮という両方の面から活動している。
本論文では、ファストファッションとスローファッションの2つの環境面での有効な比較対象となるものを探しつつ、今後の衣料品メーカーの方向性を導き出す。
 
安村健亮 「富山・堺・札幌の三都市のLRT化についての比較  〜合意形成・費用対効果・環境への貢献についての視点から〜」
 この論文は、2006年に日本で初めて本格的なLRTとして開業した富山市、LRT化の計画が発表されながら、市長選の結果、計画が白紙になってしまった大阪府堺市と、市電の延伸・ループ化の計画が進められている札幌市の事例について、@導入までの合意形成について、A費用対効果(LRTが選択された理由)、BLRT化による環境への効果、の3点について比較・検討を行った。また、本稿の特徴として、合意形成について比較を行う際に、それぞれの都市の事例についての比較を試みた。その結果として、本格的な協議を進める前に、地域に住む住民がどの程度「地域の足」としてLRTの整備を望んでいるのか、という点と、その上で本格的な合意形成の協議の段階では、行政によるしっかりとした情報開示が必要かつ鍵を握るということが重要であると考えるに至った。
 また、LRT化による環境への効果ついては、3都市とも計画段階では、LRT化のメリットとして環境負荷低減効果を上げているにもかかわらず、温室効果ガスの削減などの効果について具体的な数値などを用いた説明は行われていないため、どれほど環境に優しいものなのか根拠を示す必要があることが分かった。
 
渡辺励 「外来生物の駆除と経済利用   〜食用として導入されたウチダザリガニとブラックバスを取り上げて〜」
 この論文は過去に食用として導入されて、日本各地の水域に定着したウチダザリガニとブラックバスについて調査し、この2種の特定外来生物の駆除及びそのための対策事業について比較して、現在の駆除の状況や月日の経過による駆除の進展・成果から、より良い対策方法の模索をし、特定外来生物の駆除によって得られる個体を経済的資源として活用する方法がないか、考察して自分なりに結論を出したものである。
多大な被害を侵入した地域に与えるウチダザリガニの駆除について、長い月日の経過から有効な対策方法を見出すことが出来ないだろうか、ブラックバスの駆除・利用例を参考にして、定着したウチダザリガニを駆除する上で利用価値を見出すことは出来ないだろうかと考えてこの2種を卒業論文のテーマとして選択した。
 まず外来生物についての基本知識を得るため、外来生物問題について調べて、どのような被害や影響があるのか学んだ。次に「元々食用として利用するために導入され、日本各地の様々な水域に生息拡大し、在来種資源の減少といった問題を引き起こしている」という共通点を持つブラックバスを取り上げて比較してゆくことを考察の方針として決定し、「ウチダザリガニの生態、被害、導入、捕獲方法、漁業扱いと持ち出し禁止規定による変化、利用、春採湖におけるウチダザリガニ捕獲事業」について調査した。比較対象であるブラックバスについても「生態、被害、導入、利用、駆除方法、滋賀県の有害外来魚ゼロ作戦事業」について調査した。
 ウチダザリガニとブラックバスの現状を把握して導入、利用、駆除方法、北海道と滋賀県が取り組んでいる外来生物対策事業をそれぞれ比較してみると、両種について本格的な対策が為されるようになってから共に10年以上が経過しているが、その駆除への取り組み方や得られた成果が異なる事、導入と利用の流れと結果が似ている事に気づいた。
考察では「ウチダザリガニの漁業扱いと持ち出し禁止規定による変化について、外来生物法の規制は有効な成果をもたらしたといえるか」、「ウチダザリガニの利用は上手くいっているといえるか」、「釧路市での春採湖のウチダザリガニ捕獲事業は成功しているといえるのか」、「食用として導入され在来種の捕食などの被害を出している点が共通するブラックバスとウチダザリガニの駆除や利用を比べて違いを見出せないだろうか」という4つの疑問について、各章で得られた情報から現状と問題点を順に挙げた。そして最後に環境地理学演習ゼミの先輩である、岡山祥太郎氏と水本誠氏の卒業論文における結論と比較して、考察によって辿り着いた私自身の考えを述べた。
そして、現状の対策ではウチダザリガニは減るどころか増えてゆく一方であるからウチダザリガニ駆除の研究や駆除事業に対する補助金を増やし、小さい個体にも対応できるトラップを導入し、ウチダザリガニの根絶を目指して駆除対策を強化するべきであり、捕獲事業で得た個体の主な利用方法として、飼料や肥料に加工する研究を生かし、飼料や肥料の生産量を増やして、売り出す事で新たな需要を生み出すべきであるという結論に至った。
 
富森貴章 「知床のエコツーリズム -地域ごとからみる知床のエコツーリズムの現状と可能性?」
 私は、地元である知床が世界自然遺産に登録されたことから、知床ではどのような自然保護の活動が行われているのか興味を持った。そこで、環境保全と地域経済の活性化の両立を図る有効的な手法のひとつであるエコツーリズムに注目した。
本論文内では、環境地理学演習で同じエコツーリズムについて取り組んだ先輩方の論文を参考にしながら、彼らの発表から年数が経過し「エコツーリズム推進法」が施行されたことから、エコツーリズムに必要となる要素を新たに「地域資源の保全」「環境教育」「地域の振興」「観光振興」の4点であると考え、知床のエコツーリズムの現状と今後について「斜里町」と「羅臼町」の2つの地域に分けて考察している。
斜里町では、観光名所の多さや従来のガイド事業の多さからガイド事業を主体として、両地域共通のガイドラインの策定や知床五湖の登録引率者登録試験などの従来の観光業を生かした、より幅の広い自然体験の提供による“より深い体験”を目指すことを重点に置いた取り組みを、羅臼町では、主幹産業である「漁業」を用いた体験プログラムとして新しい観光の振興を重点に置いて取り組みを行っている。
両地域ともに全く特色の異なる観光の方法であるが、羅臼町では、漁業従事者がガイドとなって生産者の視点から、斜里町では、生態学者の視点からの知的好奇心を満たすものであり、根本的には同じガイドツアーであるといえ、どちらもエコツーリズムに必要となる要素に沿って取り組まれていることから、両地域ともにそれぞれの強みや特徴を生かした独自のエコツーリズムが形成され、地域ごとのエコツーリズムはうまくいっているものだといえる。また、知床でのエコツーリズム推進体制は、国内初の地元主導で行う地域発案型の推進体制でありであり、「知床方式」とし他地域が参考にするほど、連携の充実度が見て取れた。
しかし、そんな「連携」が充実しているとされる知床でも、営利目的のガイドたちがガイド協議会で定めた、ガイドラインの穴を突いた「グレーゾーン」の利用や観光協会と漁業関係者との意識の違いから体験プログラムが単発で終了してしまうなど、自然ガイドとガイド協議会、観光協会と漁業関係者など意識や理解の違いから取り組みに関しての温度差が生まれ、まだ「連携」が未成熟となっている現状がある。
このことから、地域住民や利用者、旅行業者の意識を高め理解・協力を得て、関係者間での温度差をなくし「連携」を深めていくことが今後の知床のエコツーリズムをさらに向上・推進していくための「カギ」になると結論付けた。
 
波多野奨太 「カラスの問題は解決したのか 〜自治体の取組を例に〜」
卒業論文のテーマを考えるとき、人間にとって身近な動物をテーマとして取り扱おうと考えた。そこで、テレビの報道番組でも頻繁に取り上げられ、自分自身もよくカラスに荒らされたゴミを見て不愉快な気分になったことから、カラスの問題をテーマとすることを決めた。
まずはカラスとはどんな動物なのかについてまとめた。そして、どんな問題を起こすのか、それにどんな対策ができるのかを調べてまとめ、まとめたものを元に私たちがどうやってカラスに向き合っていくべきなのかについて考察した。
2010年に同じくカラスをテーマにしたゼミ生である佐々木先輩の卒業論文を参考に、カラスの起こす問題を客観的に被害が小さいものと大きいものに分けた。身近な問題は前者で、社会への影響が大きいのは後者である。この両方に特に効果があるのはゴミ対策であり、実際に多くの自治体で行われている。
ゴミ対策以外でよく行われるのは駆除であるが、こちらは短期的に生息数を減らすには効果的だが、駆除だけで全体の生息数を減らし問題を解決することはできず、根本的な対策とはならない。ゴミ対策をメインとし、適切に駆除を行うべきである。
報道番組に取り上げられる機会が減ったこともあり関心が薄れてしまいつつあるものの、 カラスの問題は依然として残っている。関心の低下というのは大きな問題であり、それが対策のマンネリ化を招いており、このままでは再びカラスの問題が大きくなった際に対応できない。それを未然に防ぐためには、住民に対しカラスとはどんな生き物なのか、どんな対策が有効なのか、それをしっかりと周知し、意思の疎通を図っていくべきだ。
 
今川義章 「北海道における間伐材有効活用 〜ペレットストーブの利用〜」
 北海道庁によると、北海道では生産目的のために育てられていたはずが木材の需要低迷により間伐が行われない、あるいは間伐をしても間伐材の利用がなされないなど、森林の整備がしっかりと行われず、森林の成長に悪影響がでているという状況にある。
森林には大きく分けて天然林と人工林の2種類がある。天然林は自然の力で育てられている森林であり人が手を加える必要がないものである。これに対して、人工林は木材の生産目的で人の手で育てられている森林で、成長過程において人が手を加えなければいけない。問題となっているのが人工林で、生産目的のために育てられていたはずが木材の需要低迷により間伐が行われない、あるいは間伐をしても間伐材の利用がなされないなど、森林の整備がしっかりと行われず森林の成長に悪影響がでている。
この卒業論文ではこれらの問題について、新エネルギーの一つであるバイオマスエネルギーを取り上げて考察した。バイオマスの生産地は、農地、草地、森林の3つがあるが、この3つのうち、バイオマスエネルギーの利用の原則を満たし最も効率のよい利用方法を考察し、バイオマス利用の本命は森林である事を示す。また、森林を使ったバイオマス、すなわち森林バイオマスの利用方法にも効率のよい方法と悪い方法があるため、効率のよい方法を考察したうえで、その方法であるペレットストーブをとりあげて北海道庁が問題としている間伐材未利用の問題について議論した。
ペレットストーブについて文献やインターネット、聞き込み調査などを通して、ペレットストーブの普及を推進しているにもかかわらず、あまり効果が表れていないことがわかった。理由としてペレットストーブについての知識がつたわっていないことや、ストーブの価格、燃料の入手方法などの使用する際の不安要素があることがあげられる。ここからペレットストーブをこれから普及させるためには、PR活動の強化や、使用するにあたっての不安要素を一つ一つ解決、ペレットストーブの競合相手の分析を行い、ペレットストーブの価値を顧客に伝える必要があることがわかった。
 
菊池真未 「津付ダム建設計画から中止に至るまで ―岩手県と住民の合意形成について―」
 津付ダムは、気仙川の治水対策を目的として計画されていた治水専用ダムである。1977年の予備調査から今年で37年経つが、2011年に発生した東日本大震災の影響を受けて県は、津付ダム「建設中止」の方針を示した。本体工事には未着工であるもののこれまで周辺整備は着々と進められてきていた。しかし調査の中で、国土交通省が2009年に「できるだけダムにたよらない治水」への政策転換を示していたことが明らかになった。私はこのような状況の中でダム建設に関わる整備が進められてきたことに疑問を抱いた。また、ダム建設が中止された場合流域住民の安全な暮らしは確保されるのかということについても疑問であった。この2つの点について、県と住民の間の合意形成の段階や、建設中止についての県の方針についての検証を行った。結論として、岩手県側の住民への対応はダム建設を前提としたものであり、事業主体の姿勢として望ましいものではなかった。また、流域住民の安全の確保について、岩手県は安全が確保されるとしているが建設予定地であった気仙川の支流である大股川の今後の対策については示されておらず、建設中止の方針を示すには住民への説明が十分ではなかった、と結論付けた。
 
三上優人 「北海道のアライグマの現状 アライグマはエゾシカのように有効活用できるのか」
 北海道ではアライグマの個体数が増えすぎて被害が拡大しており、2011年(平成23年)には農業被害額が約1億2000万円に達した。対策としては、ワナを使って捕獲し、殺処分して廃棄物として焼却されている。
 北海道ではアライグマのほかにもエゾシカの個体数が増えすぎて農林被害が拡大している。エゾシカも捕獲・駆除をするといった対策がされているが、エゾシカはアライグマと違い、肉や皮革が有効活用されている。
 アライグマもエゾシカのように有効活用できないか考えたが、アライグマには感染症や寄生虫がおり、食用にするには危険が伴う。エゾシカの場合、先住民族アイヌが鹿肉を食べるという習慣があったが、アライグマは元々日本には生息しておらず、食べるという習慣がないので、食肉としても普及するのが難しいのではないだろうか。
 アライグマには、感染症や寄生虫がいるので毛皮を加工するときにも危険が伴う。衛生管理を整えて商品として販売したとしても、革商品は高いのであまり売れず、元が取れない可能性がある。だから、国産の毛皮ではなく輸入の毛皮が使われているのではないだろうか。
 以上のことから、アライグマを有効活用することは可能だが、かかる費用のほうが高くなってしまうので有効活用されていないという結論を出した。
 
田畑大地 「霧多布湿原におけるナショナルトラスト 〜釧路湿原と比較して〜」
 霧多布湿原は国内で3番目の広さを持つ湿原で、春から秋にかけて様々な花が見られることから「花の湿原」として呼ばれているが、湿原の3分の1である1200haが民有地となっており、霧多布湿原の保全については、この民有地部分を良い状態にできるかどうかが大きな鍵となっている。
 霧多布湿原の民有地をナショナルトラスト運動によって買取り、保全活動を行なっているのが、NPO法人霧多布湿原ナショナルトラストである。本論文では、釧路湿原においてナショナルトラスト運動を行なっている、NPO法人トラストサルン釧路と比較していくことで、それぞれの抱えている問題や現状を見て考察していった。
 その結果、霧多布湿原と釧路湿原の両者とも買取りに関しては、問題となっている土地や保全のための買取りができていることがわかった。しかし、団体の体制については、釧路湿原よりも霧多布湿原の方が、町との連携、支援団体などがあり、体制として整っていると考えた。
 また、現状の日本において、海外のようにナショナルトラストがしやすい環境は整っておらず、こうしたなかで、ナショナルトラスト運動や保全活動を進めていくには、霧多布湿原ナショナルトラストとトラストサルン釧路の連携を強化していくことが必要なのではないかという結論に至った。
 
澁谷祐輔 「阿寒湖、世界自然遺産登録へ向けて  〜阿寒の自然をアピールしていくために〜」
 阿寒湖は北海道の道東中央部に位置する阿寒国立公園内にある湖の一つで元々古阿寒湖という一つの湖であったものが雄阿寒岳の成長によって3つ(パンケトー、ペンケトー、阿寒湖)に分断された内の一つであり、2005年11月にラムサール条約湿地に登録された湖である。阿寒湖には、1952年3月に国の特別天然記念物に指定された世界的にも希少価値の高いマリモが周辺の様々な自然環境が相まって生育している。2003年には阿寒・屈斜路・摩周一体となって世界自然遺産を目指したが登録基準を満たしていないとして、世界自然遺産登録候補地として落選という評価を受けた。この経験から釧路市は2012年7月阿寒湖の世界自然遺産登録を目指すため阿寒湖世界自然遺産登録庁内会議を設置し登録へ向けて市が中心基盤となり再び阿寒湖の世界自然遺産登録へ向けた動きが始まった。
 この論文では、阿寒湖の世界自然遺産登録へ向けた周辺地域の活動や世界自然遺産へ向けた登録基準をどのように満たすのか、また登録を目指す上での問題点はどのようなものがあるのかという事をまとめ世界自然遺産を目指す上で、今後阿寒で地域活動がいかに行われていくべきかについて考察していく。
 第一章では世界自然遺産登録におけるクライテリアを阿寒はどのように満たしていこうとしているのかという視点からまとめた。世界自然遺産登録には、まず日本の世界自然遺産登録候補地として選定され暫定リストに登録されなければならない事、自然遺産の登録基準の4項目を満たさなければならない事が理解できた。
第二章では阿寒湖の概要と地熱発電開発計画について述べてきた。阿寒湖では、1921年にマリモが国の天然記念物に登録され更に1952年に特別天然記念物に指定されて以来、地元ではマリモをはじめ周辺自然環境の保全がより一層厳格に行われてきた。そして、今世界自然遺産を目指す阿寒には地熱発電開発計画が存在し地域団体は開発は難しいという意見を持っている事が理解できた。
 第三章では、一章及び二章でまとめた登録基準を念頭に阿寒湖ではどのようにクライテリアを満たしていくのかという点について2013年8月24日に釧路市で行われた世界自然遺産シンポジウムを基にマリモの歴史、既に世界自然遺産として登録されている日本にある世界自然遺産の登録基準と2003年に阿寒摩周屈斜路が世界自然遺産登録候補地落選を比較し、世界自然遺産として重視される二重構造(基礎となる生態学的な特性に象徴的な自然現象や生物が上乗せされた構造)を確立していく為に阿寒湖は阿寒湖沼群という生態学的な特性にマリモを中心とした生物及び自然現象を正確にしていく事が明らかになった。
以上の事から、地域が阿寒湖の世界自然遺産を目指すにあたり、登録を目指す地域団体の意欲的な活動体制、地域住民の登録へ積極性があるという結論に至った。
 2012年7月に釧路市で世界自然遺産登録庁内調整会議が始まり、8月阿寒湖の世界自然遺産に関するシンポジウム、セミナーなどが行われている。また、10月には阿寒湖に環境省から委託された調査員による調査が始まり新たな阿寒湖の生態も明らかになり登録へ向けた活動が一つ一つ行われている。また、阿寒湖畔には温泉街もあり今後は人間と自然のバランスを念頭に自然保護について考える事が重要であると考える。したがって世界自然遺産登録を目指し登録を最終目的とするのではなく、阿寒湖の自然をこの先も残し続けていく為に、常に地域が一体となり阿寒湖の自然を維持していく活動についてその都度考え実行していく事が世界自然遺産として登録する阿寒湖の価値であるのではないだろうか。
 
中野諭志 「北海道におけるクマゲラ保護 ―東北地方の保護を参考に考える―」
私がこのテーマで卒業論文を仕上げようと思ったきっかけは、環境に関連することと聞いて、北海道で絶滅しそうな動植物について取り上げ、考えてみようと思ったからだ。その中でも、なぜクマゲラにしようかと思ったかというと、北海道で絶滅が心配されていながら、保護活動の状況があまり見えてこなかったからだ。東北地方では、クマゲラが繁殖していないと思われていたのだが、実際に繁殖しているところが確認されて以来、クマゲラを守っていこうという動きが盛り上がりを見せた。しかし、それでも本州のクマゲラは数が少なくなっており、繁殖も年に数羽が確認されるのみとなっている。一方北海道では、正確な数はわかっていないものの、クマゲラをあまり見なくなったという地域住民の声を聞いているため、研究者も数が減っているということは認識している。そこで、これをテーマにして卒業論文を書くことに決めた。
この卒業論文を書くにあたって、過去に東北地方のクマゲラ保護という題材で卒業論文を書いた久保との比較が重要になってくる。久保は北海道のクマゲラについては、論文の中であまり触れておらず、そのタイトル通り東北地方のクマゲラ保護を中心に論理を展開している。東北地方のクマゲラ保護については、今年度は繁殖の様子も確認されていない。そのため、東北地方のクマゲラ保護は厳しい状況に陥っている。また、北海道においては緑の回廊構想が今のところ必要ではない。生息域から考えると、新たに緑の回廊を設定しなくとも、クマゲラが生活できる環境が整っているからだ。
しかし、中枢動物であるクマゲラを守ることは生態系の維持につながっていくため、北海道では東北地方で用いられていたものより厳しい規制を設けるべきだ。
 
田鎖渉 「北上市の環境政策における成果と課題  〜北上市の環境政策は成功といえるのか〜」
 この論文は、私が北上市の出身でありながら、北上市の環境問題についてテレビなどで報道しているのを見たことがなかったので確認してみたかったということと、北上市で環境汚染が起こっていたという事実から現在の状況を私なりに考察し、北上市の環境政策は成功していると言えるのか、今後どのような対応をしていけば北上市の環境が向上していくのかを、考えてみたいと思い作成した。
北上市で過去に起こっていた水質汚染や大気汚染に対して、環境保全協定や公害防止条例などの政策を企業と締結することによりどのような影響があったのかを考察している。また、現状の環境の状態についても合わせて考察しており、過去に比べ現状の環境状況は良好になっているのか、水質の状況だけでなく水生生物の生息状況や、行政の活動、市民の環境保全活動の活動状況を考察した。
考察した結果、2013年現在の環境状況はおおむね良好であったが、2006年の水質及び大気の環境汚染問題、2007年には市の水質汚染事故が30件を超えるなど問題が発生していた。過去の環境から環境政策を整備させていき、課題も見受けられたがそれらの反省から現状はよくなってきていると結論づけた。
 
佐藤 公一 「雪氷熱エネルギーの普及に向けて -グリーン熱証書制度から見る-」
本論文は、雪氷熱エネルギー施設の普及に関して2011年から施行された雪氷グリーン熱証書という制度について論じていく。雪氷熱エネルギー施設は環境付加価値や環境効果を持っているため、普及されていくべきであるが、コストの高さや導入の条件の難しさなどで普及が滞っている。そこで2011年から施行された雪氷グリーン熱証書という制度を導入し、施設を造らなくてもそこで作られたエネルギーを証書として購入することで普及につなげようとしている。本論文は、この雪氷グリーン熱証書制度がどのようなメリットを持っているのか、購入に関してのコストはどのくらいか、企業の雪氷グリーン熱証書制度への態度はどのようなものなのかを示し、2014年現在の雪氷グリーン熱証書制度では普及につながらないという結論に達した。
 
葛西俊輔 「オオワシの保護について 〜鉛中毒、石油天然ガス開発を例に考える〜」
 卒業論文のテーマを考える際、私は以前から興味があった猛禽類及び渡り鳥、さらに絶滅危惧種という3つの要素を取り入れ議論していきたいと考えた。本論文では、オオワシの生息を脅かしている鉛中毒と石油天然ガス開発という2つの問題を取り上げ、今後における本種の保護について考察を行った。本論文の構成は以下のようになっている。
 まず第1章では、序論や研究方法等を記述した。次に第2章では、オオワシの概要、IUCNと環境省各レッドリストにおけるカテゴリー、日本国内及び国外における保護対策について記述した。卒業論文のテーマにしたオオワシは、陸上における生態系ピラミッドの頂点に位置する大型猛禽類であると同時に国の天然記念物にも指定されている。また2013年現在、日本(環境省)のレッドリストには絶滅危惧U類、IUCN(国際自然保護連合)には危急種というカテゴリーに位置づけられていた。そのうえ、本種は日本国内に限らず、二国間渡り鳥等保護条約・協定、ワシントン条約のもとで保護され、世界的にも高く評価されている。
第3〜4章は、越冬地と繁殖地における問題について記述した。当ゼミの先輩佐々木(2004)は、鉛中毒と石油天然ガス開発の2つの問題を取り上げており、今後の保護対策にはこれまで以上の啓発が必要だと結論付けていた。これらの問題を考察した結果、前者は依然被害が根絶していない状況にあったものの、2013年10月には、行政(北海道庁)の方で、鉛弾の所持までを禁止する方針を固めていたので、それが今後の鉛中毒被害を防止する良いきっかけにつながるか否かを考察した。一方の後者に関しては、サハリンプロジェクトという計画が策定され、本開発が遂行されている。佐々木(2004)の研究結果では、サハリンプロジェクトは1〜6、つまり6つのエリアで開発が行われていたが、2013年時点では9つのエリア(鉱区)まで拡大していた。その中でもサハリン1、2各プロジェクトのもとで行われている開発は、オオワシの一大繁殖地にあたっていたことから、同地で繁殖する本種の営巣環境や捕食とする餌資源への影響に焦点をあてて考察した。
第5章は、第3〜4章で既述した問題とオオワシの保護についての考察や評価を行い、本論文の結論を述べた。
 
木村勇太 「尾瀬国立公園におけるエコツーリズム推進の課題  〜ガイド資格認定制度を踏まえながら〜」
 尾瀬国立公園のエコツーリズムについては2008年の卒業生である片山裕之氏が議論している。片山(2008)によると、「チャウス自然体験学校以外の民間団体の取り組み」では、「エコツーリズムの理念に沿ったエコツアーを実施していることは認識できず、チャウス自然体験学校以外に尾瀬でエコツアーを取組んでいる事業者はいない」としている。2014年現在の日本エコツーリズム協会のエコツアー総覧でも、チャウス自然体験学校のツアーである尾瀬エコツアーだけが紹介されていた。また、このエコツアーはグッドエコツアーにも選ばれていた。しかし、尾瀬認定ガイド協会(現尾瀬ガイド協会)がエコツーリズム大賞の特別賞を受賞しているほか、(株)会津高原ネイチャースクールでは子供から大人まで参加できる尾瀬ガイドプランを行っている。このことから、片山氏が議論してからすでに6年が経っており、尾瀬国立公園でのエコツーリズムは変化していると考えられる。
 エコツーリズムは観光客に対して「自然の成り立ちや歴史・文化が持つ深い意味をわかりやすく解説し、来訪者に大きな感動」(環境省2008)をもたらす。以前に他地域のエコツアーに参加したことがある人や環境についての知識を持ち合わせている人は別になるのだが、家族や友達、一人で目的地に訪れたとしても、あまり効果は見られない。その自然の成り立ちや歴史・文化を解説してもらい、初めて感動をすることができる。また、それをもたらしてくれるのはガイドと一緒に訪れた時である。片山(2008)でも、「何の知識なしで行っただけでは通り過ぎてしまうような小さなことでも立ち止まってゆっくりと解説してもらい新しい発見をしたり、手で触れたり、鼻で匂いをかいだり、山小屋で地元の食材を使った料理を味わったりと五感をフルに活用して自然と接することで『楽しく学べ』」たとしてガイド付きツアーのことを評価している。
西表島ではカヌーを用いたエコツアーを行っているが、「マングローブの膝根が踏みつけられ、カヌーから乗降する際に生じる波や、海岸での人の行き来が大変多いため、海岸浸食の問題が生じている」(上村ら2010)ことから人材教育が急務であるとしている。
 こうしたことからこの論文では、尾瀬国立公園におけるエコツーリズム推進の課題についてガイド資格認定制度を踏まえながら考察していき、またガイド資格認定制度は尾瀬国立公園にどのような役割があるのかをまとめる。
まず第2章では尾瀬国立公園の概要並びに保護・保全されるに至る歴史、そして現在での利用状況と尾瀬国立公園について述べていく。第2章では環境省や東京電力など尾瀬国立公園に携わっている機関や企業の文献・ウェブページを引用・参考にしてまとめていく。第3章ではエコツーリズムの歴史をたどり、各研究機関や研究者の定義・理念をまとめたうえでエコツーリズムとは何かをまとめる。第4章では、第3章からの流れをくみながら尾瀬国立公園におけるエコツーリズムについて行政・民間双方の取り組みを見ていく。第5章では尾瀬国立公園での取り組みの1つであるガイド資格認定制度についてまとめ、第6章ではこれまでまとめられた結果から問題点や課題を指摘・考察し、すでに利用がもたらす負荷からいかに尾瀬を保護するかという局面に移行していることから、尾瀬国立公園におけるエコツーリズムの推進はガイド資格認定制度が非常に大きな役割を持っていると考えた。そして、ガイド資格認定制度の必要性と役割を述べ、ガイド資格認定制度に強制力がないことが課題点であると指摘した。強制力を持たせることでさらに推進することができ、またエコツーリズム推進を図っている他地域の模範になるものだと結論付けた。
 
穴久保孝明 「阿寒湖のマリモ  〜阿寒の観光における観光資源としてのマリモの重要性〜」
この論文は、種としてのマリモと観光資源としてのマリモ、また阿寒の観光に関して調査し、阿寒湖のマリモの重要性と阿寒湖のマリモの観光利用の可能性とあり方を考察していく。
 最初に種としてのマリモに関して調査し、阿寒湖のマリモの希少性とマリモの保護についてまとめている。阿寒湖のマリモは、阿寒湖の地形、湧水、水流、などの要因によって30cmを超える大きさに成長し、綺麗な球状を作りなおかつ群生する。これは阿寒湖が唯一である。しかし阿寒の観光地としての発展による水質の悪化や水位の変化、売買を目的とした盗採によって減少し阿寒湖内の生育地のいくつかは消滅した。これに対し特別天然記念物への指定や阿寒湖とその周辺の国立公園指定といった法的な保護や盗採の防止のための監視、水質・水位の管理、特別天然記念物「阿寒湖のマリモ」保護会の結成など地域住民も参加し対策が取られた。しかし、生育地の復元は実現されていない。
第U章では阿寒の観光と、マリモは観光資源としてどのように活用されているか調査した。阿寒湖のマリモを有する阿寒は阿寒湖や阿寒岳などの雄大な自然と温泉宿泊施設やアイヌ文化という強みを持った、道東を代表する観光地である。しかし地理的要因、航空行政の規制緩和や旅行形態が団体から個人へ変わったことなどの要因で、主要産業である観光は低迷している。それを受け阿寒は、阿寒の観光再生へ向けて、地域が一体となり滞在型の観光地への環境づくりやまちづくりに取り組んでいる。その阿寒の中でマリモは様々な形で観光資源として利用されている。例えばマリモ観察センター、阿寒湖畔エコミュージアムセンターでの展示や、マリモを活用したエコツアーなどである。また「マリモ羊羹」などの土産品やNPO法人阿寒観光協会まちづくり推進機構のキャラクターである「毬里夢」など、マリモを間接的に観光利用している例もある。
第V章では阿寒湖の世界自然遺産登録へと向けた取り組みに関して調査し、阿寒湖のマリモのその希少性を中心とした阿寒湖の環境が、世界遺産登録基準を満たすうえで重要であることをまとめている。
第W章では、まず阿寒にとってのマリモは象徴であることを確認し、阿寒湖のマリモの希少性、阿寒の観光資源、マリモの観光利用の状況、大衆のマリモへの関心といったことから、阿寒で最も重要な観光資源は阿寒湖をはじめとする雄大な自然であり、その自然の一部である阿寒湖のマリモも、寒湖と同等の最も重要な観光資源であるといえる、と自分の考えをまとめている。またマリモの観光活用と保護の両立の可能性の一つとして、『マリモ保護管理計画』で提案されている、マリモの消滅水域の復元事業に関して、実現後も保護の観点からみて、活用のあり方を慎重に考えていくべきだという考えをまとめている。
最後にここまで調査したことをまとめ、マリモの今後の観光利用の在り方を考察している。マリモの観光資源としての活用方法を直接的な利用と間接的な利用の2つに分け、直接的な利用に関しては、保護の観点から安易に生育地へ近づけるような活用をせず、マリモの保護を訴えることを目的として始まった「まりも祭り」のプロモーションを強化するべきだと考えた。そして間接的な利用として、NPO法人阿寒観光協会まちづくり推進機構のマリモを題材にしたキャラクターである「毬里夢」を使い、他のご当地キャラクターに倣った、インターネットを使った情報発信をしていくことが必要だと考えた。そして阿寒湖のマリモを今後も持続的に活用していくためには、マリモを阿寒湖の象徴として位置づけ、それを保護していくことで阿寒湖とその週域の環境を守っていくことが重要だと結論付けた。
 
中村拓磨 三陸地域の海岸防災環境復旧における合意形成はどのように行われたのか   〜岩手県大槌町を例に〜」
大槌町を含む三陸地域の海岸防災に関する合意形成は、納得のいく妥協点が見つかっていない。理由としては、震災直後にトップダウンで決められた各沿岸被災自治体の巨大防潮堤の建設について、住民たちの根強い反対の声があるからだ。
 また、東日本大震災から2年半が経過して、トップダウンによって決められた復興計画が、住民団体の働きなどボトムアップによって見直され、納得の行く妥協点を見つけることが出来た宮城県気仙沼市のような自治体が出てきたほか、12月に入って、官房長官など内閣から「防潮堤高の見直し」という話題が出てきた。このこともあり、現時点での住民間と行政間との合意形成はうまく行われていない。
今後、大槌町では、岩手県の達増拓也県知事や、大槌町の碇川豊町長の態度の軟化という明るい材料があるため、これから、議論が本格的に進んでいくと考える。
しかし、海岸防潮堤は「減災」「多重防護」の考え方のうえでは外せないものであり、リアス式の地形のため、平地が少ない大槌町を始めとする三陸地域の自治体においては、何層にも海岸防災施設を重ねるのは住民の居住地を圧迫することになり、広範囲に防災施設を建設するのは困難であると考える。また、リアス式海岸においては、市街地や港の広がる入り江に波が入れば入るほど増幅するため、海岸防潮堤をある程度大きいものにする必要があるのは仕方のないことではないかと考える。また、議論が長引けば長引くほど、復興の遅れも招くため、人口流出の続く大槌町では早期の決着が必要である。
合意形成にうまくつながらなかった要因では、復興を急ぐ行政側と、納得の行く復興を求める住民側との間で、合意形成のための話し合いなどが満足に行われていなかったことである。行政が求めているものは復興の「スピード」であり、住民が求めているのは、「主体的な行政への参加」であり、それが納得の行く復興につながる。気仙沼市では、住民自らが防潮堤の高さについての議論の場を形成し、両者が納得できる合意形成を目指して活動している。まちづくりにおいては、各自治体が懇談会のような議論の場を設けているのに、防潮堤の高さに限って、行政側のみで決定されてしまっていた。
特に、今回の東日本大震災での行政側の動きでは、事業主である国、県や市町村など行政が主導権を握っているという構図が、今回の東日本大震災にかかる防潮堤復旧計画策定の一連の流れを通してわかった。
そのため、県が歩み寄りを見せている岩手県と、県が頑なに巨大防潮堤計画を崩さない宮城県では、合意形成のスピードに大きく違いが見られる。結局は、行政側が歩み寄るか、歩み寄らないかにかかる部分が大きい。
その中で、行政側にも工夫は見られる。防潮堤の内側に「森の防潮堤」を造成することは、自然環境や住民の主体的な行政参加にも配慮した計画とも言える。まだ、計画段階ではあるが、それを大槌町単独が独自に財源を賄って行うということは、まちづくりの考え方において重要なことではないだろうか。
また、2013年12月になって菅内閣官房長官や小泉政務官らが「防潮堤高の見直し」「住民の意見を反映」という考えを示した。これまでのメディアの動きを見るに、「巨大防潮堤見直し」の論調がこれからさらに広がっていくと予想する。
宮城県気仙沼市は、住民主導でまちづくり団体の中に「防潮堤を勉強する会」を組織し、自ら防潮堤についての勉強会を開き学んだうえで、積極的に行政との話し合いを行うなど特に住民の「巨大防潮堤見直し」への動きが目立った。気仙沼市では、住民の声が高まったことを行政側も看過できなくなったのか、巨大防潮堤計画の見直しが決まった。
気仙沼市の「防潮堤を勉強する会」は、自らの勉強会の成果や、行政側との議論の経過などをホームページで公開し、インターネット上のSNSサービスなども用いて、外に向けて積極的な広報活動を行っている。
 一方の大槌町では、一般社団法人「おらが大槌夢広場」が、2013年11月に「まちづくり文化祭」を開催し、地域住民が行政と話し合う場を設けた。この話し合いは11月中に2度行われ、今後も継続的に続いていくという。この団体は、防潮堤計画見直しを進めるための住民側の団体というわけではないが、住民参加型のまちづくりを支援する団体である。
 このように、大槌町にもまちづくり団体が存在し、ボトムアップで防潮堤高の見直しにつなげていけるような土壌は存在する。今後の行政と住民間の議論の中で、住民側が行政側を動かすためには、住民たちの意見を取りまとめるリーダー的な団体の台頭が必要であると考える。
大槌町からその動きが高まっていくに越したことはないが、気仙沼市の「防潮堤を勉強する会」や既存の団体の協力を得るなどと連携して、三陸地域の住民が「連合体」となってこの窮地を乗り越えていく組織づくりが必要なのではないだろうか。
 
石川実穂 「現行の調査捕鯨における成果と課題」
 私は、現在行われている調査捕鯨には賛成できないという立場をとることにした。なぜならば、まずX-2において調査捕鯨推進派が、クジラを調べ、海洋生態系を管理していくことが調査捕鯨の目的であると述べていたように、クジラを調査するに当たっては海洋生態系を調査し、管理していくことが今の調査捕鯨の目的であるといえる。
しかし、クジラが漁業と競合しているのかはだれもはっきりとはわかっていない状態である。しかも、調査捕鯨推進派は、日本にとってクジラと漁業が競合していることは死活問題になっていると主張しているのにもかかわらず、いまだに反調査捕鯨派を納得させるような証拠を導き出せていない。だとすれば、現在行われている調査捕鯨はクジラを調べることによって、世界全体で海洋生態系の管理を行っていくのが目的であるにもかかわらず、反調査捕鯨派も納得するだけの証拠が出せていない、意味のない調査ということなのではないだろうか。
これらのことを踏まえて、今後日本が捕鯨をどのように行っていくべきなのか考えると、
 
 1、日本単独では沿岸のみでの調査捕鯨にとどめること
 2、南氷洋のような公海上において調査を行う際には、ほかの捕鯨国との合同研究を行 うようにすること
 
という条件が必要であるという考えに至った。
まず1については、X‐2において星川が南氷洋のクジラはオキアミしか食べないと述べ、X‐4において小松が南極海での、オキアミと気候変動とのかかわりについて述べていたように、南極海においてクジラはオキアミしか捕食しないため、漁業とクジラが競合していることを調査するには不向きであるということ、そして日本沿岸での調査捕鯨だと、漁業と鯨との関係性を調べるに当たっては、漁場である日本沿岸で行うのが一番効率的だからである。また、気候や海洋の変化といった、地球規模での調査を行いたいならば、南氷洋で調査を行う際にはほかの捕鯨国と協力して行うべきであり、日本単独で行う調査捕鯨は日本沿岸だけにすべきだというのが、私の第一の結論である。
次に、2については1と共通してくる部分もあるが、X−4において大隅や小松は、調査捕鯨は人類全体への福祉につながっていくと述べた。しかし一方では、石井の主張のように、日本の用いている、クジラの生態や人間との競合についてのデータは的確でないという意見もある。確かに、一国の科学者が導き出したデータだけだとよほど証拠がない限り信憑性を持たれるのはかなり厳しい。しかし、いくつかの国でチームを作り、そのチームで調査を行い、データを作成することで、信憑性の高いデータを作成できるようになるのではないだろうか。また、このようにいくつかの国で共通のデータで鯨を管理できるようになるということは、大隅が目指している、鯨の国際的管理を達成する大きな足掛かりになるといえるのである。
これらのことを踏まえたうえで、私は現在行われている調査捕鯨には賛成できないと考えている。なぜならば、調査捕鯨には我々の税金が使われており、使われた分はしっかりと、調査結果やゆるぎない証拠として国民全体に還元していくべきであるからだ。また、もし、調査捕鯨が人類全体の利益になるという確信があるにしても、それは一国が単独で推し進めるべきではない。ほかの国と協力してこそ価値があり、また、信憑性の高い主張を展開できるのではないだろうか。これらの理由から、私は現行のやり方での調査捕鯨は再考すべきであるという結論に至った。
 
木村啓太 「札内川ダムが与えた生態系への影響について 〜ケショウヤナギを例にとって〜」
 ケショウヤナギをこれから保全していくためには、第2章で説明した、自生地域が限定的であり、挿し木、移植の難しさ、といった理由から、このケショウヤナギという種を保全するためにはその生育場所を守ることが一番大切であると考えた。その生育場所を守るためには礫河原が将来的にも更新される必要があり、第5章の帯広市の取り組みとしてあげている礫河原の再生という取り組みが不可欠である。そして2013年度現在、帯広市は札内川ダムを使った試験放流を行い、人工的な出水による河川の攪乱を起こすことによりケショウヤナギや礫河原を更新させようと実験し、その結果をモニタリングして、礫河原再生の対策として効果の有無を検討している。
しかしながら、帯広市の取組みとして、ダム運用以前の河川環境へと再生を図る、ということは本来、ダム運用前に何かしらの対策を講じておれば、必要なかったことではないのか、そのために現在礫河原再生計画にあてようとしているコストは無駄なものではないのか。第6章における地域住民の意見としてでているダム運用の影響について、帯広市が札内川ダムについての因果関係の否定をするならば、その論拠を示してくださいという十勝自然保護協会の意見に対してしっかりと対応すべきである。そうでなければ、帯広市はダム運用の弊害については認識しておらずに礫河原再生計画を進めているのではないか、と地域住民から疑問を持たれる要因となってしまう。
第4章において沖縄県のダム問題では、第2次沖縄県環境基本計画(2013)による、「治水事業に伴う河川横断工作物(砂防ダム、取水堰等)の設置、河道の人工化などにより河川生物の生息場が消失しつつあります。」として、実際にダム運用が下流域の生態系を変容させた問題として発生している事例があり、沖縄県はこの問題をしっかりと認識し、今後の課題として見据えている。もし帯広市が札内川の礫河原減少においてもダム運用の弊害を認識していないのならば、しっかりと認識すべきである。でなければ第6章であげた十勝自然保護協会共同代表の松田まゆみ氏の「ダムで砂礫の流下を止めてしまった以上、下流では砂礫は減る一方なのだ。河川敷に堆積した砂礫はすぐにはなくならないだろうが、次第に減っていくだろう。つまり、どこかから砂礫を運んでこなければ、やがて砂礫川原は衰退していく運命にある。永続的に砂礫川原を維持するのなら、ダムに堆積した礫をダムの下流部に定期的に運ぶか、ダムを壊すしかない。永遠に続けなければならない事業になるだろう。」という指摘のとおり、永遠に終わらない事業としていつしか取り返しのつかない状況に陥る可能性もある。そんな状況に陥らないように帯広市は真摯に住民の意見に耳を傾け礫河原再生、ケショウヤナギの保全に取り組んでほしい。
 
 
 




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